平成最後のダイヤ改正

 平成の終盤、世の中では「平成最後の○○!!」という文字が並び、たびたび話題になっていた。しかし多くの人たちが話題にしていた「平成最後」は大晦日や紅白歌合戦、昭和の日など、おおむね毎年行われていたイベントだった。ここでは、そんな中ひっそりと行われた名鉄のダイヤ改正にスポットライトを当て、紹介していきたいと思う。

 名鉄では、平成31年3月16日にダイヤ改正が行われた。毎年のように多くの鉄道会社でダイヤ改正が行われている首都圏民からすると、騒ぐほどでもないことのように思われるが、そうではない。過去のダイヤ改正で様々な名運用(迷運用?)を作り出してきた名鉄だが、2011年12月17日のダイヤ改正を最後に、ぱたりとダイヤ改正が止まってしまったのだ。その後築港線や三河線などで細かい時刻変更は行われたものの、丸7年間は特筆すべきダイヤ改正は行われてこなかった。

 そんな名鉄がついに、ダイヤ改正を発表したのである。2007年や2011年のダイヤ改正に比べると規模は小さいが、さすが名鉄、他の鉄道会社ではまず考えられないような謎運用も登場した。ここでは今回行われた改正のうち一部を紹介したいと思う。

※お読みの際、手元に名鉄の路線図を用意すると分かりやすいかもしれない。

1.特急・快特が8両に!〜輸送力増強〜

通常、昼間に運転されている特急や快速特急(以下、快特)は6両編成である。旧平日ダイヤでは18時ごろになると、帰宅ラッシュなどを考慮し、増結車(一般車)2両を連結して8両で運転されていた。ところが旧土休日ダイヤではその措置がとられておらず、夕方になっても一部を除いて6両のまま運転されていた。

 改正後は土休日の夕方、豊橋ー岐阜・豊橋ー新鵜沼間の特急および快特(以下、該当系統)の上下合わせて24本が8両編成に増強された。名古屋を通る該当系統は1時間に4往復なので、3時間の間編成増強が行われるということになった。(ただし、どの電車で編成増強が行われたか発表はなかったため、「3時間の間」というのは筆者の想像である。)

 該当系統は一部特別車(※)の車両で運転されており、特急券なしで乗れる一般車は編成両数から2引いた数となる。よって今回の改正によって一般車が4両から6両へと1.5倍に増えたため、かなり混雑緩和が期待できるのではないだろうか。

犬山駅にて撮影。この塗装ももう見られなくなってしまった。

※「特別車」「一般車」って?

 名鉄の車両は特別車と一般車の2種類に分かれている。一般車は乗車券のみで乗れる車両である。特別車に乗車する際は乗車券のほかにミューチケットと呼ばれる特急券を購入する必要がある。ミューチケットは距離に関わらず一律360円である。ミュースカイは全車特別車、快速急行以下の種別は全車一般車で運転される。特急・快特は一部特別車で運転されることが多い。「一部」という表記のためややこしく見えるが、首都圏の総武線快速や常磐線、東海道線などのグリーン車のようなものと考えればよい。ただし、首都圏のグリーン車は10両もしくは15両のうち2両だが、名鉄では6両または8両のうち2両が特別車となるため、一般車は大混雑、特別車はガラガラという事態がよく発生する。

 運用の都合上、快速急行以下の種別に一部特別車の編成を充当させることがある。その場合は特別車締切扱いで運転され、特別車には乗車できない。

2.最終電車が30分も遅く?〜三河海線〜

 最終電車を数分繰り下げるなどの細かい調整はよく見られるが、30分も繰り下げというのは珍しい。

 旧ダイヤでは、平日・休日ともに三河線(海線)の知立→碧南(へきなん)の最終電車は知立23:43発、碧南0:14着だったが、逆方向の碧南→知立の最終電車は碧南22:41発、猿投23:11着というかなり早い時間になっており、上下線の営業運転終了時刻が1時間以上も違うという状況になっていた。

 改正後は、23時台の知立→碧南の電車が1本増便(知立発23:03)されたうえ、多少の時刻調整(知立発23:17の電車が23:20発に変更)が行われた。旧ダイヤでは23時台になると急に30分間隔になってしまっていたのが改正後は約20分間隔になった。碧南→知立は、旧ダイヤの最終電車の後に碧南発23:10の電車が追加された。

知立駅付近にて撮影

(画像は知立駅付近にて撮影)

3.名鉄で一番新しい駅が大出世!〜南桜井駅〜

 南桜井駅は名鉄275駅の中で最も新しい駅である。添付したグラフは安城市の他の駅と比べた南桜井駅の利用客数の変遷だ。利用者が開業時の4倍以上になっており、特急停車駅である桜井や南安城の利用客数を軽々と抜かしてしまっていることが分かる。

 そんな南桜井駅が今回のダイヤ改正で、急行停車駅に昇格した。これにより昼間の本数は、今までの30分に1本から倍に増えて15分に1本になった。発車本数は以下のように変化した。()内は改正前との比較である。

平日:新安城方面(上り):73本/日(+16本)

     西尾方面(下り):70本/日(+17本)

休日:新安城方面(上り):69本/日(+16本)

     西尾方面(下り):70本/日(+16本)

 改正前のダイヤでは西尾線内の急行と準急の停車駅の違いは南桜井駅だけだったため、南桜井駅を急行停車駅にしてしまうと両種別に停車駅の差がなくなってしまう。そこで名鉄は、「南桜井駅を急行停車駅に格上げ」した上で、今まで西尾線を走っていた「すべての準急を急行に格上げ」するという方法をとった。よって今回のダイヤ改正により、西尾線から準急が消滅することになった。夕方頻繁に行われていた「準急⇔急行⇔準急⇔普通」のアクロバティック種別変更も見られなくなってしまった。ちなみに、3回種別変更する運用は改正後も数は少なくなるが残っている(伊奈→(普通)→国府→(準急)→東岡崎→(急行)→神宮前→(準急)→犬山 など)。

4.利用者にとっては死活問題…?〜系統の微調整〜

 優等列車を優先するダイヤが組まれがちな名鉄では、普通列車の運用時間に占める待避時間(駅に停車して優等列車を先に行かせるために待っている時間)の割合がかなり高い。そのため普通列車で遠くまで行こうとは考えない方が良いダイヤになっており、長い距離を走り通す普通列車もあまりない。日中は、岐阜からの名古屋本線系統の普通列車は須ケ口までしか行かず、須ケ口から名古屋方面への普通列車は津島線からの直通列車という状況である。

 しかし朝ラッシュ時は例外で、岐阜からの普通列車が須ケ口を越えて運用される例が少なからず存在する。旧ダイヤでは平日朝には4本あった(ただし、うち2本は須ケ口から準急に種別変更する)。深夜にも1本、岐阜発常滑行の普通が設定されている。

 今回のダイヤ改正では岐阜6:37発の東岡崎行普通(750列車)が須ケ口止まりになり、その代わりに佐屋7:18発の須ケ口行普通(764列車)が東岡崎行になった。旧ダイヤでは須ケ口に7:40に到着した750列車が、1分後に到着する764列車の乗り換え客を待ち、7:42に発車するという巧妙なダイヤが組まれていた。ただ、750列車は須ケ口の2駅手前の新清洲で、岐阜を30分後に発車した快速急行(704F列車)に追い越されており、単純に名古屋に早く行きたい乗客は皆そちらに乗り換えてしまう。そのため須ケ口に到着した750列車には、極端に考えれば丸ノ内からの乗客しか乗っていないということになる。対して764列車の方は、先行電車が3分前を走っているためそんなに混雑していないとはいえ、佐屋ー甚目寺間の津島線全駅で乗客を拾ってきており、須ケ口到着時点では比較的混雑していると予想できる。

 だったら混んでいる電車を東岡崎まで走らせてしまおうというのが名鉄の考えのようだ。確かに合理的だが、もしかしたら座って名古屋まで行くために後続の快速急行に乗り換えずに岐阜発の750列車に乗っている乗客もいたかもしれない。その人たちにとっては良くないニュースであったに違いない。

5.さすが名鉄!〜始発駅が特別停車〜

 改正前には土休日に金山6:48発-中部国際空港7:20着の快速急行(600E列車)が設定されていたが、ダイヤ改正でこの電車は栄生(さこう)始発に変更となり、名古屋を通るようになることで空港への利便性を向上させた。名古屋を通る電車が1本でも増えることは画期的ではあるが、問題は始発駅である。

 その昔、名鉄では1日あたりの特別停車の回数があまりにも多い時代があった。それもそのはず、種別は普通・急行・特急の3種類しかなく、系統は現在と同じくらい細かく分かれていたのだ。それを2005年のダイヤ改正で、快特・特急・快速急行・急行・準急・普通の6種別体制にすることで特別停車を減らした(その後、ミュースカイが種別化して7種別となった)。種別が増えても平気で特別停車は行われてきたが、栄生に快速急行が停車することだけはなかった。

 問題の600E列車は始発駅の栄生が特別停車となった。名古屋本線内での急行と快速急行の停車駅の差は栄生だけなのに、栄生に快速急行を停めてしまったらもう訳が分からなくなる。名古屋まで回送にすればいいのに。

 ちなみに、名古屋で種別変更する上り電車が栄生に停車する場合、駅の電光掲示板や時刻表では種別変更後の種別で案内される(堀田駅の下り電車でも同じ方法が採られており、神宮前で種別変更した後の種別が案内される)。改正前も名古屋で快速急行に変わる急行などは、栄生では「快速急行」と案内されていたため、乗客はさほど混乱していないだろう。なお、始発駅が特別停車という例は、伊奈発の特急や豊明発の急行というように他にも存在する。

※画像の快速急行は紹介したものとは別の系統である。名鉄一宮駅にて撮影。

6.あの”名物”待避が廃止?〜西枇杷島駅〜

 名古屋を出た名古屋本線の下り電車が初めて待避可能な駅が、西枇杷島駅だ。さぞ多くの電車が待避に使っているのだろうと思うが、そうでもない。

 まず、そもそも西枇杷島駅に停車する電車の本数が少ない。普通停車駅のうちでも特に本数が少ない駅であり、名古屋市の隣の清須市の駅なのにも関わらず日中はなんと30分に1本である。しかも日中はダイヤに比較的余裕があるため、隣の二ツ杁で待避が行われる。

 また、待避駅として非常に使いづらい。凄まじい急カーブと東海道本線の高架に挟まれているため、ホームが狭く細く短い。そのため4両編成までしか待避線に入れない。ちなみに二ツ杁は本線上にホームがなく、緩急接続ができない。二ツ杁の2つ隣の須ケ口も配線の都合上、同一路線同士での待避ができない。どうも制約のある駅ばかりである。

 そのため、朝夕のラッシュ時以外には西枇杷島駅での待避は行われてこなかった。そのレアさ、真横を電車が通過していくスリルなどから、プチ名物になっていたのだが…。

 今回のダイヤ改正では、”すべての”西枇杷島待避がなくなり、代わりに二ツ杁で待避を行うようになった。現在の平日夕方ラッシュ時の西枇杷島待避は、普通電車が到着した直後にミュースカイと特急が立て続けに通過するダイヤになっており、今後はミュースカイと特急が二ツ杁までノロノロ運転を強いられることになり、ダイヤに余裕がなくなりそうだ。とにかく、西枇杷島駅の両端2本の線路(のりば番号が設定されていないのでこのような表記になった)が営業運転に使用されることがなくなるのは少し寂しい気もする。1回くらい西枇杷島待避を行う普通電車に乗っておけば良かったと思う。さらに2019年度の名鉄設備投資計画によると西枇杷島駅ホームの改良工事が予定されており、2面4線の状態の西枇杷島駅が見られる時間も限られて来ている。

新型車両9500系の新造など様々な予定もあり、令和の時代になっても進化していく名鉄の今後の動向に注目していきたい。

参考にさせていただいたページ(外部リンク)

安城市 統計 https://www.city.anjo.aichi.jp/shisei/tokei/anjonotoukei15.html

2019 年度 名古屋鉄道 設備投資計画

https://www.meitetsu.co.jp/profile/news/2018/__icsFiles/afieldfile/2019/03/25/release190325_ceprogram.pdf

名鉄岐阜駅にて撮影。

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